「定款の作成(相対的記載事項・任意的記載事項)」
前回は定款の絶対的記載事項である「目的」、「商号」、「本店の所在地」、「設立に際して出資される財産の価額又はその最低額」、「発起人の氏名又は名称及び住所」の5つについてのお話でした。
前回の話と重複しますが、商法を勉強した方は、「絶対的記載事項は8つあったのでは?」と感じるのではないでしょうか?商法時代に絶対的記載事項であった「設立時の発行株式数」「発行可能株式総数」「公告方法」は絶対的記載事項から削除されました。しかし、これらは実務上、絶対的記載事項と同様必ず定款に記載されます。記載されていない定款は見たことがありません。定款でこれらを定めない場合は発起人全員の同意や創立総会などで決議して決定する必要があります。公告方法については何も決議がなければ、公告方法は官報とみなされます。であれば、原始定款に全て記載しておいたほうが書類も手続きもシンプルで分かりやすくなるのです。
以上のことから学問上の区分である絶対的記載事項、相対的記載事項、任意的記載事項を丸覚えすることに私はあまり意味がないと思っています。もちろん絶対的記載事項は漏らすわけにはいきませんが、法務局や日本公証人連合会の定款モデルをベースに、あとの肉付けは発起人の意向と会社法の条文を照らし合わせてケースバイケースで当てはめていくことのほうが実務では重要となります。経験により、この条文入れたほうが良いとかこの条文は削除したほうが良いという判断をしておりますので、相対的記載事項や任意的記載事項について個々の説明は難しいものがあります。これが当事務所の商売ネタでもありますので・・・(^_^;)
ところで、会社の規模を表す一定の指標である「資本金の額」が登記事項ではありながら絶対的記載事項になっていないのはなぜでしょうか?第1章のお話の中で株式会社は資金調達のための手段であるといいました。株式会社は多くの投資家から資金を集めて事業活動を拡大するという大前提があるわけですから、資本金の額を定款の絶対的記載事項としてしまうと、増資の度にいちいち株主総会で定款変更決議をしなくてはならず面倒臭いのです。株主が増えれば増えるほど株主総会開催や決議も一筋縄ではいかなくなります。つまり、ある程度株式会社がある程度自由に増資できるように定款の絶対的記載事項とはしていないのです。一方で新株発行を乱発してアクセルをふかし過ぎないよう発行可能株式総数という枠を定款に記載させることでブレーキをかけています。この辺の理論が見えてくると会社法の勉強がとても面白くなってきます。ちなみに、会社成立時の最初の資本金の額については、定款の中で記載するケースがほとんどです。これも定款で定めないと設立までに決定する必要があるため、成立時の資本金の額だけは例外的に定款に記載するのが普通です。
その他、定款作成のうえで私が特に注意するのは、会社法第911条第3項の規定です。設立時の登記事項を第1号~第30号まで列挙してある条文ですが、定款を作成する上で避けて通れないものです。定款を変更した場合にもこの条文は必ずチェックすることになりますので、実務家にとっての超重要条文だと思います。会社の定款見直しで実際にあった事例として、役員の責任限定契約締結について定款で定めているのに登記されておらず、解決策を提案してあげたら非常に感謝されたことがあります。そうなればもう依頼者の方からは絶大な信頼をいただけることになります。行政書士や司法書士にとっては飯の種にもなる条文なのです。
次回は、変態設立事項と呼ばれる定款の特殊な記載事項についてのお話です。